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NOSTALGHIA

前田アトリエ 都市|建築 共同物件

濃密な時間を刻む景色を段状の土間で繋ぐ

「あたらしいおうちはおそとがいっぱいでたのしいね!」
クライアントのお嬢様(3才)の引越し直後の言葉。はじめての雨の日には、目に映る雨を全身にあびるように、ずっと窓ガラスにくっついていたそうだ。無垢の(臆見をもたぬ)身体が発する瑞々しい言葉や振舞いは、建築の本来的に望まれる存在の仕方をふと照らしてくれる。建築が住まい手にとって「新しい知覚体験」の契機となること、そして日々の経験や “気付き”が濃密な記憶として積層し熟成してゆくこと・・・
敷地は都市部に位置する典型的な住宅地の一角にあるにもかかわらず、眼前には“不思議な”光景が広がっていた。時の流れが停止し “俗世界”に背を向けるように・・。濃密な時間が圧縮された “映画的情景”。ここでは、吹く風も、揺れる木々も、鳥の羽音も、虫の囀りも、不揃いな野菜達も、無邪気な植生も、すべて映画的時間を加速させる触媒として機能している。

“映画的情景”の背景には「段状に遠ざかってゆく不整形な区割りの畑(地形)」という構造が浮き上がる。この属性を直接的に敷地に引き込むことで「階段状に変容された敷地」が生まれた。この場所では、映画のスクリーンを観賞するようにではなく、映画的時間の内側を生きられるように経験されることが肝要であり、段差の位置、高さ、幅、角度は周到に検証された。結果、内部(敷地)での出来事は、外部(畑)にそのまま雪崩れ込み、同時に、外部(畑)の出来事は内部(敷地)の経験として映し出される。ゆえに“内/外の腑分け”は、厳密に敷地境界線を意味し、(温熱環境の)内外の腑分けは無効となり、敷地上でのすべての経験(風景との応答)がすなわち建築の経験となる。
段差地形の他に“記憶の為の設え”が各所に用意される。鉄骨階段には非計画の産物として生まれた「上階からこぼれ落ちる異質な物質性」が付与された。2階(居室群)は開放的(陽)な1階と対照的に路地的(陰)な場所となる。平行ではない通路上の領域(部屋としても使用可)、空隙のような袋小路、家族の筆跡が重ねられる黒板塗料の壁、無造作に穿たれたニッチ。加え、居室群を包囲する金網フェンスは周辺風景を異化すると同時にテラスに回遊性を与える。回廊の幅は場所毎に変化し時に行く手を阻む(子供だけすり抜け可能)。

これらは住まい手に語りかける“問い”であり、問いへの応答は “生活の記憶”となる。奇をてらうでもなく、手垢の付いた様式に安住するでもなく、そこに“問い”を確かに残すこと。その答え無き“問い”に我々は敢然と立ち向かわなければならない。
「あたらしいおうちはおそとがいっぱいでたのしいね!」
「おそと」とは“世界”「いっぱい」とは“ありのまま”「たのしいね」とは“触れている”ということだったのかも知れない。
“世界のありのままに触れられる場所”NOSTALGHIAはそのような存在であり続けて欲しいと願う。

CASE02
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NOSTALGHIA 平面図

所在地/神奈川県横浜市
主要用途/専用住宅
家族構成/夫婦+子供2人

設計 : 前田アトリエ 都市|建築+RSSTUDIO
担当/白石隆治+徳丸祐規(前田アトリエ 都市|建築)

構造 : 梅沢建築構造研究所
担当/梅沢良三 三野裕太
施工 : 和田建築

主体構造・構法 : 鉄骨造
規模 階数 : 地上2階
敷地面積 : 135.05㎡
建築面積 : 65.81㎡
延床面積 : 101.59㎡

MAIKING POINTS

SELF-BUILD BY ARCHITECT

階段の仕上げ

鉄骨階段がもつ、手垢のついた「階段然」とした佇まいを脱臼させるために、現場中(終盤)に設計変更(追加)を行った。
結果、記号としての階段は消失し、あたかも粘液が上階からこぼれ落ちてくるような粘「得体の知れない」物質性が現れた。これは、現場中の「気付き」に端を発するものであり、吟味された美しさよりも生々しい事件性(即興性)が要請されるため、設計者による施工(セルフビルド)はむしろ必然であった。このような、それが何であるかを判断できない「異様さ、異質さ」といった佇まいもまた、住まい手の「記憶」に深く関わるものである。

1.鉄骨階段の状態
1.鉄骨階段の状態
2.鉄骨階段に木下地を設置
2.鉄骨階段に木下地を設置
3.木下地に曲げベニヤ
3.木下地に曲げベニヤ
4.曲面の稜線を現場決定
4.曲面の稜線を現場決定
5.(捻れ部)下地大量投入の上曲げベニヤ短冊張り
5.(捻れ部)下地大量投入の上曲げベニヤ短冊張り
6.木下地の完成
6.木下地の完成
7.捻れ極大箇所はGLによって整形後ラス網張り
7.捻れ極大箇所はGLによって整形後ラス網張り
8.軽量モルタルしごきの上モルタル薄塗りにて完成
8.軽量モルタルしごきの上モルタル薄塗りにて完成
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