無為に耽る家

土木的肌理と静寂の架構
都市と遮断され、自分だけの世界に没入できる、3層の吹抜けと埋め尽くせないほぼ蔵書できる本棚のある家。それが建主の希望であった。
敷地は都内商業地域に位置する間口3.4mの超狭小地であり、それは都市空間の中にポッカリあいた空隙のように感じられた。
住まい手が孤絶を満たせる居場所をつくるためには、最初に建築的作為を忘却することから始めなければならなかった。空間に「作為」が残れば、それは設計者の声としてノイズとなるからだ。
そこで土木という粗野で無垢な態度が必然として要請された。ここでいう土木とは、たとえば首都高速道路のような強靱な土木構築物が都市に無造作に投げ出される時、無作為ゆえに風景に溶けはじめ、異質さよりむしと静けさだけを淡々と供給するような存在の仕方に関するものである。この土木的建築の構想によって、質感(粗野な肌理)と無造作で逸脱したスケールの架構形式が導かれる。そうして設計の雄弁さに脅迫される緊張感とは対極的な静寂に満ちた寛容さが生活空間にもたらされた。
結果として、3層の内部空間は、部屋という機能によって明確に区分されることなく、ひとつの流れとして曖昧に分節と接合を繰り返すこととなり、上部高窓から落ちる自然光に照らされるそれらの風景は、あたかも都市の空隙をそのまま居場所に変換したような様相となった。
この空隙の質を維持するため、3層にわたる巨大な本棚は、躯体と密接な関係性をもつ必要があり、棚板支持材は躯体と連結し、吊り部材、連結材なども、本来型枠内部の背筋工事に用いる部材が選定された。
無愛想で硬質な時間が淡々と流れる場所。作為が後退し、住まい手の声だけが充満された場所では、無為という状態に耽ることができる。
建築的作為の否定に始まったこの計画には、人が孤独を抱えながら都市に強く住まうための、ひとつの建築的可能性が示されていると考えている。















所在地/東京都台東区
主要用途/専用住宅
家族構成/1人
設計 : RSSTUDIO 担当/白石隆治
構造 : 岩永陽輔施工
施工 : 剛保建設
主体構造 : 鉄筋コンクリート造
規模 階数 : 地上3階
敷地面積 : 44.75㎡
建築面積 : 29.55㎡
延床面積 : 86.60㎡